傍楽 - Kaori's Blog

「働く」とは「傍(近くにいる人)」が「楽(らく)」になること。日々の仕事を通じて社会に貢献する、社会事業家・活動家から感じたことを綴っていきます。

『今時の「不登校」を考える』に参加~中学校内サードプレイスは新しい不登校支援

いつもお世話になっている一般社団法人officeドーナツトークの田中俊英さんが講師として登壇された、公益社団法人 日本精神神経科診療所協会 児童青少年問題関連委員会 主催【子どものこころの健康を考えるシンポジウム『今時の「不登校」を考える』】(開催場所:浜松町)に参加しました。前半が講演、後半がディスカッションという構成でしたが、田中さんの講演を中心にまとめてみたいと思います。

 

 

サードプレイスとは

田中さんの講演テーマは『不登校予防としての「校内居場所カフェ」~12年目を迎えた高校内居場所カフェと、中学校内居場所カフェの可能性』でした。

校内居場所カフェはサードプレイスであるのですが、サードプレイスという言葉/概念をあまりご存知ない方も少なくない印象でした。

思春期の子どもたちにはサードプレイスが必要だということは、田中さんが以前から訴えておられますね。

tanakatosihide.hatenablog.com

 

なぜ思春期の子どもにサードプレイスが必要なのか

日本のセカンドプレイス(学校)の窮屈さ

では、なぜ思春期の子どもたちにサードプレイスが必要なのでしょうか。その理由のひとつに、日本のセカンドプレイス(学校)は窮屈すぎるという指摘がありました。まだ児童の場合は児童館があり、運営母体にもよりますが、優秀な学童はサードプレイス性があるそうです。中学校・高校とサードプレイスはなくなりますが、では思春期の子どもたちにサードプレイスというニーズが無いかというと、実はニーズはとても高いのではという考えから、「思春期の子どもたちにはサードプレイスが必要」というコンセプトで12年前に大阪府立西成高等学校で山田校長とタッグを組んで高校内居場所カフェ「となりカフェ」をオープンしたそうです。

comriap.hatenablog.com

思春期の子どもが居心地が良い場~偏見が生まれやすい子ども食堂との違い

「子ども食堂ではだめなんですか?」という質問をよく耳にします。子ども食堂は、当初①貧困支援②地域コミュニティの再生を目的として開始したと思いますが、結果的には②については成功したものの、①についてはうまくいっていないと認識しています。

なぜうまくいかなかったかというと、当事者が参加しないからです。というのも、当事者である経済的アンダークラスの子どもたちは、特に思春期ということもあり、そういった地域の場には行きたがらないんですね。自分が当事者だと思われるのも嫌でしょうし、食べ物を受け取ることで生まれる偏見をとても恐れるのではないでしょうか。結局子ども食堂に行くのは中流家庭以上の子どもや、そういった家庭とつながるのある子どもたちなのではないでしょうか。

 

校内居場所カフェは、セカンドプレイスの学校内にあり誰でも入れるサードプレイスという位置づけを確立することと、運営者がプロの子ども若者支援者です。つまり、

 

・通うことや食べ物を受け取ることで偏見を生まない

・生徒が抱えている問題に対し、ソーシャルワークを開始することができる

 

という点が大きなポイントだと思います。

 

ファーストプレイス(自宅)が安心安全ではない子どもの増加

また、田中さんは、今は日本も子連れの再婚などステップファミリーが増えてきて、思春期の子どもにとっては、親が再婚することで、本来安心・安全な場であるファーストプレイス(自宅)が緊張する場となってしまうこともあると言います。特に女子生徒にとっては、安心・安全な空間ではなくなることも当然ですが少なくないようです。新宿など夜の繁華街に出ていく子どもの背景には、ファーストプレイスが安心安全な場ではなくなっていることもあるんですね。
 
校内居場所カフェの重要なポイントは、「ソーシャルワーク」があることです。カフェで支援者と出会うことで、自分の抱えている問題を一緒に考えてくれる人ができることも重要だと思います。

負の連鎖を断ち切る「文化」の力がある

ファーストプレイス(自宅)が安心安全ではないケースとして、虐待の問題があります。また、虐待は親子間で連鎖するとも言われていますね。これを断ち切る方法は何かと考えている方も多いのではないでしょうか。田中さんは、虐待の連鎖を断ち切る有効な方法のひとつに新しい「文化」を知る、があると言います。
 
虐待が日常的におこなわれている家庭の中にある文化というのは、とても狭い世界のものだと思います。親の文化を断ち切って、新しい文化を知り新しい価値観をつくっていくこと。それは、サードプレイスにいる人たちや、その場が持っている「文化」を知ることから始まるのではないかと田中さんは強くおっしゃっていました。

サードプレイスに必要な3つの要素

まとめとなりますが、サードプレイスに必要な要素は、以下3つです。

  1. 安心安全な空間
  2. ソーシャルワークの始まり
  3. 文化の伝達

 

高校内居場所カフェと中学校内居場所カフェの違い

田中さんは、もともとNPO法人淡路プラッツで引きこもり支援をされていました。将来引きこもりとなる可能性がある若者にリーチできる場として、最後の防波堤となる高校の中に入り込み、卒業する前の生徒にアウトリーチしたい、そんな思いから高校内居場所カフェは始まったそうです。つまり、高校内居場所カフェは「アウトリーチ型のソーシャルワーク」の色が強いと思います。

 

一方、中学校内居場所カフェは「不登校予防」としての支援の色が強いのですね。

学校生活がうまくいかなくなった時にフリースクールという選択肢もありますが、フリースクールは子どもにとってセカンドプレイスになりますから、あくまでも「サードプレイスの力」による支援が必要なんですね。

つまり、高校内居場所カフェが生徒にとって「学校生活の最後の防波堤」だとしたら、中学校内居場所カフェは「最新の不登校支援」の色合いが強いということです。

tanakatosihide.hatenablog.com

 

不登校増加の背景に不登校支援の行き詰まり

昨年10月に以下のニュースが出ていました。
www.yomiuri.co.jp不登校の児童が増えている背景はコロナだけではないだろうと田中さんは指摘します。これまでの不登校支援が行き詰っており、それを誰も言語化できていないことが問題であると。また、それを突破できそうなのがサードプレイスではないかということでした。

実は不登校支援のおおまかな仕組み(適応指導教室スクールカウンセラー配置)はここ20年以上変わっていません。

それらはある意味「不登校支援の結論」なのですが、現実は不登校は増加しています。そこ(支援の行き詰まり)を誰も指摘してこなかったんですね。

だからこそ、

⑤中学校内居場所カフェは、「新しい不登校支援」

として位置付けることができます。

会場からの質問

場に馴染むことが苦手な生徒への対応

例えば、発達障害をもっている生徒など、いろいろな人がいる場に馴染むことが苦手な生徒もいますが、本来はこういった生徒にこそ来てほしいのですね。

田中さんは、校内居場所カフェには支援者側のスキルが乏しいと、結果的に発達障害をもった生徒などに我慢の連続をさせてしまい、生徒を傷つけてしまうリスクもあると指摘していました。結果、一番来てほしい生徒がこなくなってしまうんですね。校内居場所カフェの支援者スキルが重要な理由もよくわかりました。

 

教員は校内のサードプレイスにどう関わるべきか

中学校の教員の方から、教員は校内のサードプレイスにどう関わるべきかという質問がありました。本来は、生徒にとってもNPOなどの第三者が運営するのがベストではあるのですが、そうなると年間120万前後の予算を確保するなど、始めるまでに時間がかかってしまうという課題があると田中さんは言います。

すぐに始める方法としては、教員の方の中にも、サードプレイス性を出せる人がいるので、教員がカフェを運営するというのも方法としてよいのではないかということでした。

サードプレイス性を出すというのは、普段のセカンドプレイスの顔の先生ではなく、アニメについて語ったりするなど、教員としての顔以外を見せることで、同一人物であっても、その2つの顔を生徒に見せられる人ということでしょうか。

確かに高校生だとそこに矛盾を感じてしまいそうですが、中学生であれば、そのふたつの顔を信じることができる子どもらしらをまだ持ち合わせているのかもしれないと思いました。

13時~16時と3時間シンポジウムですが、他の先生のお話も含めて、大変勉強になりました~。田中さんの学校内サードプレイスが刺さっている方が多いように感じましたので、今後の展開に期待です~。