「子連れ議会問題」仕事は仕事、育児は育児~子連れ出勤せざるを得ない社会で女性の活躍はあるのか~
先日話題になった熊本市の緒方市議が、市議会本会議に乳児を連れて出席しようとしたが、認められなかったというニュース。
緒方市議のこの行動の趣旨は、仕事と子育ての両立を「自己責任」として扱われる職場や社会に対して問題提起をしたかったとのこと。また、これまでも議会事務局に対して様々な相談・提案をおこなってきたが、全てNOだったという経緯があったといいます。
2016年11月、議会事務局に妊娠報告をした折に、「妊娠中や産後も、議員活動を続けていきますので、サポートお願いします」と伝え、たとえば議場に赤ちゃんを連れて行くことや、託児所の設置などを求めたんです。
「自分のため」という風に言ったわけではありません。傍聴者や来訪者、ほかの議員、さらには控え室のスタッフなどが使えるような棟内託児所の要望でした。
しかし、全部NOだった。そのため、ベビーシッター代の補助制度などはどうか、と求めていきましたが、無理でした。
出産前に無理して議員活動をしていたこともあり、出産後は体を壊し、しばらく歩けないようになった。7ヶ月ほどお休みをいただいたのですが、12月議会から復帰したいと思い、議会事務局と再びやりとりをしました。
その際、事務局側の対応は「議員さんは控え室もあるので、個人でベビーシッターを手配して見ていてもらいたい」というものだった。
「個人的な問題」であるようにされたことに対し、私は疑問を感じたとともに、これこそまさに、「厳しさ」だと痛感したのです。そうして今回の行動に至りました。
社会学者の上野千鶴子氏の言葉をお借りすると、緒方市議の今回の子連れ議会は、きっとこのような心境だったのではないでしょうか。
「ルールを守れ、と叫ぶのは、ルールに従うことで利益を得る人たちである。女たちはルールを無視して横紙破りをやるほかに、自分の言い分を通すことができなかった」
この事件がきっかけで、子連れ出勤の是非や、職場の寛容性をめぐる議論が起きました。驚いたのは、緒方市議が代弁したかった育児中の女性からの批判も少なくないということです。
「議員ならシッター代を払え」
「会社に子供連れてくなんてただの非常識」
などの意見があるようですが、前述の緒方氏の置かれている背景と問題意識(育児と仕事の両立が自己責任・ルールを破ることでしか訴える術がなかった)を知れば、理解できるのではないかと思います。
私は子育てをしたことがないが、子育て中の人が子ども預けられなくやむを得ず子どもを職場に連れてくることに対しては、職場は寛容にならないといけないと考えます。
■仕事は仕事、育児は育児
30年前に「アグネス論争」というものがあったそうです。
タレントのアグネス・チャンさんが、母乳育児を続けたいなどの理由から、講演やテレビの収録現場に1歳の子どもを連れて行ったことについて、その賛否について論争が起きたのだといいます。
当時は、仕事と結婚すら両立しない中、仕事と育児の両立を目指すというのは、周りからの理解を得るのに相当苦労されたのだろうと推測します。
この記事で興味深かったのは、当時同じような状況であった恵泉女学園大学学長の大日向雅美教授の意見です。子どもを預けて働くことへの批判から専業主婦の母親たちには協力を頼めなかった中、毎日子どもを預かってくれる人を探すことに奔走されていたとのこと。
そんな大変な状況の中でも、大日向さんは職場に子どもを連れていくことは避けていたといいます。その理由は二つ。
①「仕事は仕事、育児は育児」として分けるべき
仕事と育児は分けるべきだという意見です。子連れ出勤は、仕事をしながら育児の負担まで抱えることになりますし、子連れで出来る仕事は限られています。また、対価をもらう真剣勝負の職場に小さな子どもがいては、本領発揮できないことが多いと思われます。
②「子どもは母親のそばにいたほうがいい」という前提を疑ってみる
母親を育児に縛り付ける3歳児神話と闘ってきた(闘っている)女性たちがいます。私が母親だったら、やはりこの神話と闘ったと思います。
また、仕事はキャリアのためだけでなく、家庭(子育て)から前向きに離れられる場でもありますから、良い気分転換にもなり、結果的に子どもに優しくできるのではないかと思います。介護にも同様のことが言えますよね。小さな子どもとずっと一緒にいるのは幸せなことだと思いますが、反面大きなストレスもあると聞いてます。また、子どもにとっても職場は制限が多く、ストレスが多いのではないでしょうか。
待機児童問題のゴールは、母親が子連れで働けることではなく、安心して育児を任せられる環境をつくること。でも、本当にどうしようもない時は子連れ出勤も受け入れようとする職場の寛容性が必要なんだと思います。