傍楽 - Kaori's Blog

「働く」とは「傍(近くにいる人)」が「楽(らく)」になること。日々の仕事を通じて社会に貢献する、社会事業家・活動家から感じたことを綴っていきます。

ドキュメンタリー映画「カレーライスを一から作る」の上映会をおこないました!~当たり前の大切さを意識する~

12月2日(土)に、ドキュメンタリー映画「カレーライスを一から作る」の上映会を立川アイムホールで開催しました! 

www.ichikaracurry.com

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上映会の看板@アイムホール

この映画は、探検家・医師の関野吉晴さんによる武蔵野美術大学の課外ゼミ(2015年)をドキュメンタリーにしたものです。課外ゼミの内容は「一からカレーライスをつくる」。お米や野菜は畑を耕して育て、肉は鳥を飼育する。また、器やスプーンまでも自分たちで一から作るというものです。

関野さんの意図は、

「モノの原点がどうなっているかを探していくと社会が見えてくる。カレー作りを通して学生たちにいろいろなことに''気づいて''もらいたい」

先が見えにくい時代になり、美大生の進路はより厳しいものになるであろうという中で、この「気づく力」が生き抜くための力になるのではないか、そのために関野さんの30年にもわたる探検家としての活動の中から得たものを学生に教えるという趣旨でした。

関野さんは、30年間探検家として人類の足跡を辿る旅をしてきた中で、「自分は日本についてちゃんと知らない」ということを実感していったそうです。帰国後、1年間品川の屠殺(とさつ)場で働きますが、これが、このドキュメンタリーの中でひとつの重要な要素になってきます。

 

■上映会@立川の企画が生まれた背景

今回の企画に関わるきっかけは、立川市議の谷山きょう子さんにお声がけいただいたことでした。

私たちが日々食べているものが食卓に出てくるまでに、どういう人が関わっていて、どのような労力が費やされているのか。このドキュメンタリーを立川で観ることで、立川市民と「食」を通じて「命(生)」を考える場にしたいというお話に共感し、一緒に活動をさせていただきました。

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谷山きょう子議員による挨拶

■「屠殺(とさつ)業」という仕事について

このドキュメンタリーを観て初めて知ったことの一つに「屠殺(とさつ)業」がありました。屠殺とは家畜等の動物を殺すことですが、具体的には、動物を気絶させ、その後頚動脈を切開して放血を促し、動物を解体する。この過程があって、初めて私たちは食肉を手に入れることが出来るんですね。

ちゃんと考えてみれば、当然このような仕事があるはずなのはわかることなのですが、これまで考えようともしていませんでした。このドキュメンタリーでは、学生たちも、カレーのお肉のために、動物を飼い、最後に自分たちで屠ることになります。

ゼミの授業で、屠殺場で働いている方が大学に講演に来るシーンがありました。屠殺という仕事には、差別・偏見があり、自分の仕事を家族や親戚 に隠している人も少なくないそうです。なぜ、差別があるかというと、

 ① 動物を殺す仕事なんて残酷な人がやるものだ
 ② 在日外国人が多い

というのが理由なのだそうです。

屠殺はもともと、家畜を飼っている各家庭では日常的に行われていたものですが、次第に世間一般から隔離されるにつれて差別を被った事例もあるそうです。日本でも明治時代より食肉産業が発達し、その当時の被差別部落などの絡みもあり、家畜の屠殺や解体に従事する者が差別を被るといった社会問題が発生したようです。


次に、ある学生が「動物が可哀想だという葛藤が起きるのではないか」という質問をしましたが、可哀想だという気持ちは一切無いといおっしゃっ ていました。それは、家畜は食べるためのものだし、むしろ自分の仕事なのでプロ意識を持って、失敗しないように意識を集中させておこなってい ると。こういう話をすると、「普段家畜をたくさん殺してるんだから、○○(ペットなど)も簡単に殺せるんじゃないの?」と言われたりするそう ですが、ペットは関係性が異なるから殺せるわけがないし、ペットは擬人化していくものだと。また、屠殺業者は 飼育をしていないというのも関係しているかと思いました。


■飼育している鳥を絞めることへの迷い

カレーライス作りも終盤になり、いよいよ飼育している烏骨鶏とホロホロ鳥を絞める時期がやってきました。

そこで、ある学生が「鳥を殺すのをやめないか」という提案をし、議論が始まりました。

「烏骨鶏が卵を産み始めたので、卵が産めなくなってから絞めたほうがいいのではないか」
「それは、利用価値がなくなったから殺す、というように聞こえる。それを待つ必要はないのでは。」

「自分たちが命を学ぶために動物を殺していいのか」
「命を学ぶためではなく、カレーライスをつくるということが一番の目的ではないのか」

最終的には「ペットとして飼ったのではないから屠るべきだ」という結論になります。
人間に近い動物になると感情が入っていきやすくなりますが、情が沸いても、家畜として飼っていたものは絞めると。

 

■「一番大切なのは、自分たちは何を食べて生きているのかを知ることだ」

以前読んだ関野氏の対談記事にの中に「一番大切なのは、自分たちは何を食べて生きているのかを知ることだ」という言葉がありました。
最近は、家畜を殺せない若者が増えているそうですが、それは「やさしい人」だからではなく、このことを意識しないで生きているからであるという内容でした。

 私たちは、そのことを意識しないでも生きられる社会を作ってしまった。だから動物も殺せなくなってしまったのでしょう。「食べる」という目的があるのにです。食べるために殺すというのは当たり前のことです。私たちはこの当たり前の大切さを意識して、それを自分たちで守らないといけないんです。カレー作りを通して、そんなことに気づいてもらえればと思います

 インターネットで検索をすれば、知識を増やすことはできます。しかし、鳥を絞める感触や、畑の土が爪の中に入る感触はネットでは教えてくれません。「食べる」というのは、決して心地良くはないそういった感触をひとつひとつ引き受けていくことなのかもしれません。そのことを、関野さんの課外ゼミ、そしてゼミを追った映画は教えてくれます。

 

www.earth-garden.jp

今回は上映会だけでしたが、次はこのテーマについて議論してみたいなと思いました。

大変面白かったです。

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立川アイムホール

 

【セミナー・レポート】フィリッポ・グランディ国連難民高等弁務官の講演会「難民の国際保護と私たちにできること~教育の役割~」~とUNHCR難民高等教育プログラム 卒業生によるディスカッション

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)トップを務めるフィリッポ・グランディ国連難民高等弁務官の講演会「難民の国際保護と私たちにできること~教育の役割~」が、19日(日)上智大学にて開催されました。

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■難民支援における教育分野の重要性について
フィリッポ・グランディ国連難民高等弁務官は講演の中で、難民支援には医療や住居などの支援と同様に「教育支援」が必要であると訴えました。

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その背景には、難民の中には18歳未満の若者が多く、そのうち5割以上が学校に通うことが出来ていなく、教育が長期間に渡り受けらていないという現状があるそうです。ちなみに、大学まで進学できるのは、わずか1%(世界平均は36%)とのこと。


彼らは、ひどい経験(家族離散、強制徴兵、労働搾取、児童婚)を経験して、難民として来ています。逃れてきた国で学校に通うというのは、教育を受けられるというだけでなく「普通の生活が送れるという感覚を子どもたちが持てる」という意味でも重要であると説明し、「教育」の反対にあるものは、「テロ」「犯罪(加害者・被害者)」であると指摘しました。


■誰一人取り残さない世界を実現するために
グランディ氏は、SDGs【Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標】は、誰一人取り残さない世界を実現することを目標としており、ここには、難民における「教育支援」も重要な役割があると訴えました。


グランディ氏は、

難民というと「難民キャンプ(強制移動)」を想像する人が多いが、難民キャンプは、いずれケアがされなくなり、難民を孤立させ、それが「怒り」につながるため良いモデルではないと説明し、難民への教育支援を国家の発展計画に含めていき、国家制度にアクセスさせる仕組みが必要である

と話しました。また、

難民が発展途上国に逃れるケースも多く、その中で、才能がある人やハイリスク層は、先進国へつなぐことも必要ではないか

との見解を示しました。

■UNHCR難民高等教育プログラム 卒業生によるディスカッション
後半は、UNHCR難民高等教育プログラム(*)卒業生3名によるディスカッションでした。
本プログラムは、日本に住む日本国籍を持もたない難民が、奨学金を受けながら日本の4年制大学で就学できるようにサポートするための奨学金制度です。

登壇者は、関西学院大学卒のチャン氏(ベトナム)、明治大学卒のジャファル氏(ミャンマー、難民2世)、関西学院大学卒のシャンカイ氏(アフガニスタン)。

卒業後の進路は、チャン氏は通訳の会社を起業、ジャファル氏はIT企業に就職、シャンカイ氏は東大の大学院に進学されているそうで、3名は本プログラムが自分たちの人生に希望を与えたということや、一方、日本人は難民についての正しい情報を知らない人が多く、もっと難民のことを知って欲しいと訴えました。

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*国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)駐日事務所と、UNHCRの活動を支える公式支援窓口である、特定非営利活動法人国連UNHCR協会が運営。パートナー大学は、関西学院大学青山学院大学明治大学津田塾大学創価大学上智大学明治学院大学聖心女子大学の8校。