少し前になりますが、EDAS勉強会テーマは「外国人向け多言語サービスの概要と課題」についてで、講師は、ランゲージワンの高橋さんでした。
外国人向け多言語サービスとは
外国人が日本で暮らす中で、言語の壁から、様々なコミュニケーションの問題が発生しします。(生活、就労、観光など)
このコミュニケーションの問題の中でも、特に健康問題や法的問題など緊急性やデリケートな要素を含む場合は、母国語でのサポートが求められます。このサポートをするのが、外国人向け多言語サービス。言い換えると、日本に在留する外国人と日本人の間に発生する課題を、外国人側の母国語をベースに解決(解決支援)するものと言えます。ポイントは、外国人のためだけでなく、日本人のためのサービスでもあるという点ですね。この認識がない方は結構いらっしゃるんじゃないでしょうか。
多言語サービスは主に以下二つで構成されています
① 国や自治体など公的機関により提供されるもの
② 民間企業により商業ベースで提供されるもの
①については、公的機関の職員自身が行うものと、機関からの委託により企業やNPO、個人の専門家(アウトソーサー)が行うものなどがありますが、公的機関が提供する場合、原資が税金になることを意識する必要があります。
同時に、通訳者の質の問題が存在しますが、質の高い通訳者の人手不足は避けられないので、分野にもよりますが、自動翻訳などリアルな人間の力に頼らないサービスの拡充も重要になるというご指摘でした。
「外国人向け多言語サービスに、どのような範囲と水準でサービスを揃えるか?」日本で暮らす外国人に対しての、我々の向かい合い方が問われます。
多言語サービスの種類
多言語サービスには大きく分けて、「インバウンド訪日客向け」と「中長期在留者・永住者向け」サービスとがあります。
<インバウンド訪日客向け多言語サービス>
- 標識や公共交通機関の案内板の多言語表示
- 多言語メニュー(ARアプリ含む)
- コンシェルジェアプリ
- 宿泊施設向け多言語コールセンターサービス
(宿泊施設の従業員が、外国人旅行者との接客時において外国語による意思疎通が困難な場合に、 コールセンターのオペレーターが通訳をおこなう) - 旅行者向け多言語コールセンターサービス
(観光・交通案内等を行う24時間対応の外国人旅行者向け多言語コールセンター)
<中長期在留者・永住者向け多言語サービス>
- 消防119番コールセンター
- 医療通訳コールセンター
- 外国人在留総合インフォメーションセンター
- 法テラス通訳コールセンター
- ハローワークコールセンター
- 年金相談コールセンター
- 都道府県警本部コールセンター
これらは、中長期在留者・永住者向けなので、原則としては日本語で対応するべきものであると思われますが、医療、生活、就労など、人権にかかわる分野が多い印象があります。医療は命に関わる問題でありますし、法テラスは経済的に厳しい層が抱える問題のサポートになることが多いと推測されます。つまり、ここが(少なくとも、119番、医療、法テラスなど)機能していなかったら、極端ではあるかもしれませんが、人権問題に発展してしまう可能性もあると感じます。
情報を保証するという視点
勉強会の参加者の方から、法律で多言語サービス(対象者の母国語で情報提供をする)を義務化することはできないのだろうかという意見がありました。
アメリカでは、「情報保証」という視点から、州の予算で医療通訳をもっているところがあり、外国人が来た時には母国語で情報提供することが義務付けられているそうです。医療機関側も、医療過誤などから自分たちを守るためにも積極的だといいます。
情報弱者に対し情報を保証するという視点は、外国人支援に限らず、様々な支援の中で重要だと思っています(行政の申請主義など)。ただ、これが言語化されて議論されるというシーンに出会ったのは初めてだったので、個人的に新しい発見でした。
では、日本はどうでしょうか。
日本政府の「多文化共生予算 総合的対応策関連予算」では、医療通訳の予算が、昨年度の1.6億円に対し今年度は10倍の17億円が確保されたそうです。
これは、日本政府が外国人とのコミュニケーションにおける様々な問題の中で、医療の問題が一番重要だという認識を持ったことがあらわれていると高橋さんは指摘します。
日本は、やっと動き出したという感じですね。
※「生活サービス環境の改善等」の25億円中17億円が医療通訳の予算
(http://www.moj.go.jp/content/001280353.pdf 最終ページより)
多言語コールセンター業界
日本の多言語サービスというのは、もともとは民間企業のビジネスとして始まっておりますが、2012年に初めて行政による多言語サービスとして、119番の多言語コールセンターが始まりました。この背景には、新しい在留管理制度が同年にスタートしたことがあるようです。
参加者の方から「アジア圏は多言語だが、通訳の対象となる言語はどのように決まるのか」という質問がありましたが、行政の多言語センターも民間業者に委託することが多いので、やはり、これはマーケットニーズがあるか否かのようです。ある程度の人数がないとニーズとして上がってこないですし、ニーズがなければお金を出すところもないのでサービス化は難しいということでした。
そうなると、上述の法律で多言語サービス(対象者の母国語で情報提供をする)を義務化するというのは、運用の実態としてはどうなっているのか気になります。
多言語コールセンターの市場規模は、20~30億と推測されており、今後100億円程度に拡大すると予想されています。日本国内には中小企業を中心に約20社ほどありますが、ほとんどが民間の営利企業です。
一部異質なのがNPO法人国際活動市民中心(CINGA、シンガ)
ここは、NPO法人として、国や自治体等からの委託事業を実施したり、法務省の「多文化共生総合相談ワンストップセンター」事業などを担当されているそうです。
最近では、外国人受入れの増加に伴い、大手のコールセンター企業も多言語コールセンターへ参入が相次いでおりますが、採算性の面から(政府の予算規模、調達手続きの煩雑、収益性)、大手はインバウンド訪日客向けサービス志向に、中小企業は多言語コールセンター事業を起点に受入関連サービスに転換されることが予想されるということでした。
ちょっと長くなってしまいましたが、とてもわかりやすく勉強になりました!高橋さんありがとうございました!