傍楽 - Kaori's Blog

「働く」とは「傍(近くにいる人)」が「楽(らく)」になること。日々の仕事を通じて社会に貢献する、社会事業家・活動家から感じたことを綴っていきます。

「ホームレス」は路上に放置された障害者の問題~ハウジングファーストという逆転の発想から生まれた支援モデル~


 今週は、ホームレス問題に取り組む「TENOHASI」代表理事の清野賢司さんのお話をお聞きする機会がありました。

tenohasi.org


 清野さんは、都内中学校の社会科の教員をしながらTENOHASIの代表理事兼事務局長として活動されていましたが、昨年退職しTENOHASIの活動に専念されています。

清野さんがTENOHASIに携わったきっかけは、中学生によるホームレス暴行死事件。社会科の教員として、これまでホームレス問題を扱ったことがなかったことに気づき、そこで、2004年に総合学習で「ホームレス」問題の授業をおこない、TENOHASIと出会ったということでした。

 

「ホームレスは差別してもいいと思われている」

 清野さんは、路上生活者は、多くの人から「ホームレスは差別してもいいと思われている」と言います。

差別していると気づきながらも、それでいいと思っている人がたくさんいる。
ホームレス問題こそ、差別問題の最前線だ」であると。そもそも、「ホームレス」という言葉も蔑称でありながら、今もまだ普通に使い続けられている。

  私自身も、立教大学院に入るまで無意識的にそう思っていたと思います。日々の生活の中で、路上生活者は視界に入ってこなかった。でも、ある学校の帰りの日、ある先生が「あのおばあさん、いつもあそこにいるのよね」と言った一言で、こんなにも路上生活をしている人がいることに気づいた。そして、1人の路上生活者を追ったドキュメンタリー「あしがらさん」を見て、自分の偏見・差別を認識したときの衝撃。差別していることが普通になると、自分では差別しているという認識すらもてなくなることに気づきました。

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路上生活者の6割が何かしらの障害を持っている

 清野さんは、活動を続ける中で、路上生活者の中に障害者(精神障害、軽度の知的障害)が多いことに気づいたそうです。
TENOHASIは路上生活者164人に対して調査をおこないましたが、その結果、精神疾患41%、知的機能の障害34%ということがわかったそうです。

tenohasi.org

 家族や学校が障害を正しく理解せず適切な対応をしなかったため、障害手帳をもたず社会に出る。当然、社会に出てもうまくいかず孤立しがちになる。その結果、アルコール依存症やギャンブル依存症などの二次障害までに発展してしまう。社会復帰がむつかしくなるという負のスパイラルに入ってしまう。

 

生活保護が「保護」になっていないという問題
 どんなに貧困になっても、我が国には生活保護というセーフティーネットがあります。しかしながら、生活保護の申請を受ける福祉事務所は、住むところが定まった状態で保護する義務があります。そのため、いわゆる「貧困ビジネス」と言われるような民間の劣悪な環境の宿泊施設に泊まるように指示する場合が多いというのが現状のようです。

tenohasi.org

多くは相部屋で、飲酒は禁止・門限など規則も厳しいようですが、生活保護費のほとんどを利用料として搾取され手元に残るのは月1~2万円のようです。何十人単位での集団生活、ひどいところは、6畳に大人2人が寝るとか、全く安心して生活できる場でないというひどい環境。特に障害がある人への配慮はなく、本当につらい生活だと思います。障害のある人はいじめの対象になることも多く、施設から飛び出し路上に戻ってしまうことが少なくないそうです。生活保護が「保護」になっていないとうのは、本当に深刻な問題だと思います。

  なぜ「ホームレス」はせっかく「入れてもらった」寮から逃げ出すのか?

こういう路上生活者への批判はよくあると思いますが、この理由がよくわかりました。

また、貧困ビジネスは、一見(HPなどを見ると)、実に社会的企業に見えます。素人には良い施設に見えるでしょう。でも、いろいろ検索していたら、以下のようなサイトがありましたので、ご参考までに。。

www.tanteifile.com

 ※貧困ビジネス。この寮だけで、年間1憶2千万円もの運営費が税金から使われているとのこと。

 

ハウジングファーストという逆転の発想から生まれた支援

  このような状況にいる路上生活者のために生まれた支援プログラムが「ハウジングファースト」です。ハウジングファーストとは、支援団体や行政が「家に住むことの可否」を判断し、「可」となって初めて支援が受けられるという従来の支援モデルとは逆の発想です。住まいは人権という考えから、家は無条件で提供し、本人が抱えている問題(依存症など)についても、本人が自己決定することを尊重していることが特徴です。

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世界の医療団HPから

 日本では、路上生活者が生活保護を受けアパートで暮らすということに対して、そもそも1人で暮らすということが難しいと決めつけられ、準備期間が必要であるという考えのもと寮などの集団生活から始めることが主流ですが、前述の通り、これにより、路上生活者が路上から抜け出せなくなっているという問題があります。ハウジングファーストはこの従来の支援モデルを逆転させ、路上から先ず抜け出させるということと、規則で縛らない・本人の問題を支援者が判断しないということが、従来の支援モデルと大きく異なっていると感じました。

「ハウジングファースト」とは、住まいを失った人々の支援において、安心して暮らせる住まいを確保することを最優先とする考え方のことです。 1990年代にアメリカで始まったハウジングファースト方式のホームレス支援は、欧米のホームレス支援の現場では一般的になりつつあり、重度の精神障がいを抱えるホームレスの方の支援でも有効であることが実証されています。

首都圏で行われている従来のホームレス支援では、「ホームレス状態にある人々、特に精神や知的の障がいを持つ人が地域生活を送ることは難しく、居宅に住むための準備期間が必要である」という考え方のもと、一定期間、施設などでの集団生活を経たのちアパート入居をめざす、というステップアップ方式が採用されてきました。しかし実際には、アパートに向けての「階段」をのぼっていく過程において、多くの人がドロップアウトしてしまい、路上生活に戻ってしまうことが問題視されるようになりました。

ハウジングファースト型の支援では、ホームレス状態にある人々に対して無条件でアパートを提供し、精神科医、看護師、ソーシャルワーカー、ピアワーカーなど多職種からなるチームと地域が連携して、その人を支えていくという手法が採られています。調査の結果、ハウジングファースト型支援によって社会的なコストが削減できることも判明しています。(世界の医療団HPより)

アメリカでは社会的インパクト(コスト削減)も証明されているようです。

diamond.jp

 清野さんからご紹介いただいた、以下の動画が良かったです。これを見た先輩が、人は「鍵のついた家」に安心感を得ると話していました。安心した鍵のある家が先ずあることで、福祉も就労支援も効果が出るのではないでしょうか。

 

「ハウジング・ファースト フィラデルフィアにおける成功の記録」

www.youtube.com